徳山ダム建設中止を求める会・事務局ホームページ


《徳山ダム計画をめぐる公開質問状とその回答の報告》


1.徳山ダム計画をめぐるわたしたちの意見

2.徳山ダム問題を衆議院議員候補者に質問した理由

3.各候補者の回答の動向

4.マニフェストのよりいっそうの明確化と説明責任、行動責任を求めます

2003年10月24日

                     徳山ダムをやめさせる会

 
「徳山ダム計画をめぐる公開質問状とその回答の報告」


1.徳山ダム計画をめぐるわたしたちの意見

(1)徳山ダム計画の評価
@ 本年8月8日、水資源開発公団(現・水資源機構)は、徳山ダムの事業費を、当初予定されていた2540億円から1010億円増額し、3550億円に変更すると発表しました。約40%の巨大な費用増加です。徳山ダム計画は水資源開発と治水を主目的とした計画ですが、今回の巨大追加費用発生に伴い、そもそもの事業目的に関する費用対効果の根拠が根本から崩れ去ることとなりました。この点だけでも、徳山ダム計画はそもそもの目的をめぐって、そのあり方を再検討されるべきものになっています。

A 加えて、3550億円と発表された事業費はダム本体建設に要する費用だけであるため、実際に水を使用する場合に必要な水消費地までの導水路事業費等が含まれておらず、消費者の視点から見て、徳山ダムの水は一体いくらになるのかが皆目見当のつかないものとなっています。さらに、徳山ダムは完成したとしても、岐阜、愛知、名古屋等の関係地域では水道、工業用水とも、水需要が全く発生していないことから、完成と同時に水余り施設となることが確実で、そもそもの事業目的が失われている状況にあります。

B 徳山ダムの目的の一つである揖斐川流域の治水水準を上昇させることは流域住民の強い願いであり、治水水準の上昇は必ず成し遂げられなければならないものと考えます。しかし、同時に治水水準の上昇は徳山ダムによってしか、果されないものではなく、より効果的な策を求めて改めて十分な検討をすべき時期にあると考えます。徳山ダムの治水機能について言えば、徳山ダムは揖斐川全体の流域面積の13%弱の集水面積しかなく、また直下に横山ダムがあることから、その洪水調節機能は限られたケースでしか発揮されないと考えます。もっと流域全体で治水対策を考えるべきです。
 治水に関する緊急策は今すぐにでもすべきでしょう。しかし、残念ながら、徳山ダムによる治水対策は、徳山ダムが水資源開発目的とセットになることによってはじめて費用対効果の点で根拠が発生するものです。上述したように徳山ダムの水資源開発目的が失われた現在、費用対効果の点での建設支持は失われ、より費用対効果の高い別の策に転換されなければならないでしょう。

C 今回の徳山ダム事業費の1010億円増額の理由の中に、環境対策費用が含まれていますが、徳山ダム建設地域並びに揖斐川流域、さらには伊勢湾の良好な自然環境の維持、さらなる向上のためには、徳山ダムの建設を一刻も早く中止することが何よりの策であると考えます。ダム建設に伴う致命的な環境破壊を決して軽視すべきではありません。

(2)徳山ダムをやめさせる会の行動
@1010億円の事業費増額問題
この問題は当然のことながら、国土交通省をはじめとする行政機関だけで処理できる問題ではないし、処理すべきではありません。従って、中部地方整備局、水資源開発公団中部支社(現・水資源機構)には、関係自治体への追加事業費要求を中止するよう求め、関係自治体である愛知県、岐阜県、名古屋市に対しては、追加事業費要求を受け入れないよう、要請行動を行ってきました。こうした行動は今後も引き続き行っていきます。

A水資源開発目的の喪失問題
私たちはこれまで徳山ダム建設に伴う実費用の提示を関係機関に要請してきましたが、残念ながら、導水路計画が全く実体を伴ったものになっていないため、回答を得ることはできませんでした。さらに現実の水需給状況を適確に認識し、徳山ダム事業の目的が失われていることを素直に認めた上で、事業を中止するように求めてきました。引き続き要請行動を行っていきます。

B事業再評価の実施に向けて
 中部地方整備局では現在、「事業評価監視委員会」で徳山ダムの事業評価が行われています。やめさせる会としましては、当委員会において適切で厳密なチェックが行われるよう意見書を提出し、岐阜県、愛知県、名古屋市には、1010億円増額負担に同意しないよう、監査請求を提出しました。監査請求については、名古屋市で11月5日10時より、意見陳述を行います。
 加えて、現在、木曽川水系フルプランの改定作業が始まっていることにも注目しており、今後、意見書を提出し、公開討論会の実施を求め、委員会での見直し作業が現実の動向にあった、より適切なものとなるよう、注目し続けていく予定です。もちろん、岐阜県、愛知県、名古屋市等、関係利水団体に対しては、フルプラン委員会に対して適切な需要予測結果を提出するよう、働きかけていきます。

2.徳山ダム問題を衆議院議員候補者に質問した理由

 今回、わたしたちが衆議院議員選挙立候補予定者(岐阜1〜3区、愛知1〜10区)に「徳山ダム事業の中止・継続」に関する公開質問状を提出したのは、上述した徳山ダム事業の抱える問題性を、各政党、並びに個々の候補者がどのように考えているかを具体的に知り、実際の投票行動の参考にしたいと考えたからです。
理由は簡単です。上述したように、徳山ダム事業は現実に一定の進捗を見ながらも、抱える問題はますます拡大、悪化し、その解決を見通すことができなくなっています。その最大の理由の一つとして、立法府である国会、その中での国会議員の徳山ダム問題に対する意思が不明確で、本来の機能を果していないことがあげられます。そこには有権者である私たちがとる実際の投票行動と、選挙時における候補者の「選挙公約」の関係が非常に不明確で、結果的に当選した政治家は、当選後、選挙公約と関係なく、様々な問題に対して自らの判断で自由に行動できると思われていることです。
今回の選挙は別名「マニフェスト選挙」と呼ばれています。この言葉通りならば、今回の選挙はこれまでの聞こえのよい、しかしながら、決して、当選後の政治家の活動を制約することのない「選挙公約」に代わり、国民に対して数値目標等を伴った明確でかつ厳格な「マニフェスト」を提示し、当選後はそのマニフェストを実現するための活動を約束した上で、国民の選択を仰ぐという、大変国民にわかりやすい選挙スタイルとなるはすです。
わたしたち徳山ダムをやめさせる会は、この「マニフェスト」という言葉の内容、実質性を確かめるために、各政党が徳山ダムや長良川河口堰、さらにはわが国の水資源開発・管理政策や公共事業に対してどのようなマニフェストを掲げて今回の選挙に臨んでいるのかについて、各党のホームページ等で確認作業を行いました。その結果、民主党が徳山ダムという名を具体的に挙げて一定の方針を述べているものの、他の政党のマニフェストには全く触れられていないことを確認しました。
徳山ダム事業は総事業費が3550億円の事業です。しかも、つい最近、手続き違反の1010億円追加事業費問題が発生した、最も新しくて大きな問題のはずです。徳山ダム事業は東海地方という一地方の問題にとどめられるものでは決してなく、かつ、その中で問われている問題の論点を見れば、わが国の水資源開発・管理政策を左右し、公共事業の動向を左右する、国政レベルの重要課題です。しかし今回、各党の掲げたマニフェストは、残念ながら、これまでの選挙公約とどこがどう違うのか、よくわからないというのが実感でした。 
ただ、その評価は別にしても、民主党は徳山ダム問題をマニフェストに入れて今回の選挙を戦おうとしています。また、徳山ダムの名を出してはいないにしても、各党ともこの巨大プロジェクトについて、当然一定の対応策を考えているはずで、それは当地方から選出される国会議員において最も深く認識されていなければならないと考えます。
加えて、マニフェストは本来、各政党が単一目標を掲げるものでなければならないと考えますが、これまでの経験からして、また、今回、選挙戦の争点となる種々の問題においても、政党の掲げる政策と個別候補者の掲げる政策が異なっていたり、ねじれているケースが少なくないことも事実です。従って、今回、わたしたちは徳山ダム問題に焦点を絞り、かつ、直接、徳山ダムの恩恵(ここでは利水面に絞りました)をうける地域で選挙を戦う候補者に対して、「徳山ダム事業費1010億円増額問題をどう思うか」、さらに「その解決法」、「徳山ダム建設事業そのものへの考え」を聞き、最後に「徳山ダム建設事業をどうするか=有権者への公約」を述べてもらい、それを広く有権者の方に知っていただき、是非、自らの投票行動の参考にしていただこうと考えました。こうした行動をとらせていただいたことについて、マスコミ関係者の方には是非深いご理解をいただくとともに、今回の公開質問状の結果をより多くの有権者並びに地域住民の方にお伝えいただけますよう、お願いいたします。以下で、回答の内容を簡単に紹介するとともに、私たちの意見を添えさせていただきます。
 
3.各候補者の回答の動向 (正確な数字、個別候補者の回答は別表を参照ください)

(1)政党別回答数
 今回、わたしたちが公開質問状を作成し、各候補者に配布したのは10月15日です。回答の締め切りは約1週間後の10月21日とさせていただきました。その後、締め切り後も「回答をしたい」という候補者が現れ、わたしたちとしましてはより多くの候補者の回答を提供すべきと考え、作業集計の可能な時間までに得られた全ての回答を有効回答として処理しました。その結果、27人(42人中)の方から回答を得ることができました。回答を寄せていただいた候補者の方に感謝いたします。

* 私たちが質問状を配付した後に比例区へ回った候補者からも、一部回答をいただきましたが、今回は小選挙区の候補者に限定した質問とさせていただき、以下では除外させていただきます。申し訳ありません。

政党別回答数

自民党 回答者ほとんどなし(1人だけ回答)
民主党 大体の候補者が回答(1人は「回答しない」と回答)
共産党 全員が回答
保守新党 3人のうち1人が回答
保守新党 3人のうち1人が回答
社民党 1人が回答(候補者1人)
無所属 1人が回答(候補者1人)


(2)自民党 
マニフェストでは、公共事業に関わって触れている部分が少ない、という特徴がありました。個別事業については全く触れられておらず、基本的に徳山ダム事業を含め、既存のダム・河口堰事業、公共事業一般において、推進の立場と考えてよいのでしょうか。ただ、自民党のマニフェストにおいて、公共事業については、「公共事業コストを…見直しを徹底し、ムダを省き効率化する」とあり、国・地方の公的債務の削減については「…危機的状況を脱するため、歳出構造改革、地方行革を進めて公的部門をリストラ、…公的債務の削減をめざす」とあります。この点からすれば、少なくとも「徳山ダム事業費1010億円増額問題をどう思うか」に対しては、明らかに問題があるとの回答をいただいてもよかったのではないでしょうか。例えば、その上で「増加金額の圧縮を図る」等の回答の仕方の方が自然であったように思われます。また、歳出構造改革の中で、徳山ダム事業等、巨大公共事業のあり方をめぐる議論は展開できるように思われるのですが。今回、回答をいただけなかったということは、こうした考えもない、ということなのでしょうか。推測でしか語れないことがとても残念です。徳山ダム問題の重要性からして、もっとオープンな場でその意思を表明いただきたいと考えています。少なくとも自民党の候補者からは、愛知2区の斉藤候補が「徳山ダム事業費1010億円増額問題は問題である」と回答し、その上で「いったん工事を凍結して、徳山ダム事業計画全体を見直」し、徳山ダム建設事業そのものについても「工事を凍結して再検討する」という回答をいただいたのみです。回答の回収状況からすると、残念ながら斉藤候補の回答が自民党候補の一般的見解とするには程遠いように思われます。というか、自民党候補は徳山ダム問題について、ともかく何も考えていない、またはこうした質問には答える必要はない、と考えているようです。

(3)民主党 
政党別マニフェストの中で唯一「徳山ダムをはじめ他の個別事業についても精査し、凍結、中止、見直し等に分類して、できるものから直ちに着手します」と、徳山ダムをあげて述べています。この点では大変評価できるのですが、川辺川ダムや吉野川可動堰計画が即時中止であることからすれば、徳山ダム事業においては、まだ事業を進めるか、中止するかの最終判断はついていないということでしょう。
民主党の場合、回答のあった10名のうち、8名は「徳山ダム事業費1010億円増額問題をどう思うか」という質問に対して「問題がある」と答え、問題の内容については「費用が増加した理由が分かりにくい」を中心に、「費用対効果が大きく変わる」、「関係県市の負担が増える」という回答が多く見られました。その上で1010億円増額問題については「いったん工事を凍結して、徳山ダム事業計画全体を見直」し、徳山ダム建設事業そのものについても「工事を凍結して再検討する」という回答が約半数を占め、多数派となっています。これらの回答が民主党のマニフェストとなるのならば、民主党の徳山ダム事業への対応は、党のマニフェストが言う「精査」してから、凍結、中止、見直しされるのではなく、「問題があるから、まず工事を凍結し、再検討を行う」とならなければならないはずです。
 その上で民主党の候補者において、どうしても問題とせざるを得ないのが、候補者間で徳山ダム問題に対する理解に大きな差があることです。例えば、愛知5区の赤松候補は「回答しない」と回答してきましたが、その真意は一体どこにあるのでしょうか?残念ながら、わたしたちには全く理解できません。また、岐阜2区の大石候補の場合、個別の質問には答えず、文章で回答を寄せてきました。そして、徳山ダム事業に問題があると考えていることは分かりましたが、最終的にどのような対処法を考えているのかについては、残念ながら理解できませんでした。一方、愛知1区の河村候補のように、「直ちに工事を凍結して「中止に向けたロードマップ」策定作業に取りかかる」と回答した人もいます。こうした候補者間の見解のブレは有権者が投票行動をする際に大きな混乱を招かざるを得ず、そしてこうしたブレが党のマニフェストに反映していると思われます。私たちとしましては、より明確な、真のマニフェストとも言うべきものが早急に出されることを強く期待しますし、そのために必要な情報、データ提供はいつでも行うつもりです。

(4)共産党 
共産党の場合、マニフェストの中では「環境破壊を引き起こすような公共事業などの大規模開発をやめさせるとともに、…事業評価を実施させます」とあり、個別事業では「諫早干拓などをただちに中止し」というように、諫早干拓事業だけが触れられています。
ただ、今回の質問状に対しては全員の候補者が、徳山ダム事業費1010億円増額問題は「問題がある」と答え、問題の内容については「徳山ダムは必要性も採算性もない」、「関係県市の負担が増える」と回答されています。その上で1010億円増額問題については「ただちに中止」し、徳山ダム建設事業そのものについても「直ちに中止する」という回答になっています。政党として全候補者が多少の書き方は異なるものの、基本的には全く同じ見解を披瀝されており、政党のマニフェストしてこれほど分かりやすいものはありません。

(5)保守新党・社民党・無所属 
 保守新党、社民党、無所属の候補者はそれぞれ3名、1名、1名と少なく、今回の質問状への回答は各1名でした。保守新党の場合、愛知6区の三沢候補が回答を寄せてくれました。そして今回、回答を寄せた人の中で唯一「徳山ダム事業費1010億円増額問題をどう思うか」という質問に対して「やむをえない」と回答されています。また、徳山ダム建設事業そのものに対しても「工事を継続しながら再検討をする」とただ一人回答されています。これは与党の一員として当然ありえる回答だと思います。私たちはこの回答に同意しませんが、少なくとも回答しない候補者よりはずっとましです。候補者として自らの見解を述べる態度が、次の議論を唯一可能にするのではないでしょうか。
 社民党の場合、愛知7区の大島候補が回答してくれました。徳山ダム事業費1010億円増額問題は問題であり、徳山ダム建設事業の工事を直ちに凍結して「中止に向けたロードマップ」策定作業に取りかかる、という回答でした。
 最後に無所属では愛知9区の井桁候補が、徳山ダム事業費1010億円増額問題は問題であり、徳山ダムの工事を凍結し、再検討する。事業計画の見直しを図ると回答してくれました。

4.マニフェストのよりいっそうの明確化と説明責任、行動責任を求めます

 今回、公開質問状を提出させていただきました。その結果、一部の政党を除く多くの政党候補者等から、回答をいただくことができました。大変お忙しい中、ご協力いただいたことを改めて感謝いたします。
 しかし、マニフェストは語るだけでは何の意味もありません。当たり前ですが、当選したあかつきには、いかにしてそれを実現するかを必死になって考え、行動していただく必要があります。少なくとも、質問に対して回答をいただけた候補者においては、1人を除く全員が、徳山ダム事業費1010億円増額問題は問題であり、最終的に事業を中止するという選択肢も含めて、徳山ダム工事を凍結して事業計画を再検討するべきだと回答しています。私たち徳山ダムをやめさせる会としましては、これらの候補者が当選された場合、この公約(=マニフェスト)を実行していただけるよう、あらゆる努力を傾ける所存です。
 マニフェストは候補者が有権者に語る一方的な宣言では決してない、と考えています。マニフェストの内容を理解し、投票することによって、同時に有権者側にもマニフェストの実現に向けて努力する義務が発生するのではないでしょうか。そのためにも、4年に1回しかない選挙時だけ、政策を語り合うのではなく、選挙に当選した後、次の選挙に至るまで、継続的に問題について語り合い、実現に向けての努力をし続けることが大切だと考えます。
 従って、私たちは、これらの候補者が衆議院議員に当選したあかつきには、徳山ダム問題をどのように解決したらよいかについて、一緒に考える場を企画しています。上述した通り、徳山ダム問題は行政の手の内の中にあって迷走を続けています。国会議員には是非議論の中で、より深く問題についての理解を深めていただきたいですし、私たちも何ができるかについて、もっと深く考えていきたいと思っています。もちろん、今回、回答をいただけなかった方にも、当選された際には招待状を送らせていただきます。11月25日、今度は徳山ダム問題を考えるシンポジウムに国会議員としてお迎えしたいと考えています。

                                     (以上)

公開質問状に関する報告と分析公開質問状へのご回答のお願い質問状フォーム回答集計―1回答集計―2回答・別表公開質問状の回答について有権者への公約


2003年10月24日編集


お知らせHOME