第1章 はじめに

第1 徳山ダム計画の概要

第2 徳山ダム計画の経過

第3 徳山ダム計画はなぜ進められてはならないか

第1 徳山ダム計画の概要

1 徳山ダム建設予定地の位置
徳山ダムは、揖斐川の河口から約90km上流である揖斐川本流を建設予定地としている。当該地は、岐阜県揖斐郡藤橋村内であり、ダム本体は旧徳山村が藤橋村に廃置分合される前の旧徳山村と旧藤橋村の村境附近に建設され、貯水池は旧徳山村あたり、集落は全集落といってよいほど殆どが水没する。
徳山ダム集水域を含めて旧徳山村は豊かな自然環境が残されている我が国でも希少な地域であり、絶滅が危惧されているイヌワシ、クマタカの生息が確認されている。

2 徳山ダム計画の概要
 徳山ダム計画は、概要以下の通りの巨大ダム計画である。
事業費は昭和60年度単価で約2540億円とされているが、このまま建設を進めればこれを大幅に上回る費用がかかることは必至である。しかも、この事業費はダム自体にかかる費用に関するものだけであり、附帯工事や、下流で実際に水を利用するための取水・導水施設の費用は含まれていない。
 ダム本体計画
  型 式 中央遮水壁型ロックフィルダム
  堤 高 161.0m
  堤頂長 415.0m
  堤体積 約1390万m3
 貯水池計画
  集水面積 約254.5km2
  湛水面積 約13.0km2
  総貯水容量 約660,000,000m3(日本最大規模)
  有効貯水容量 約351,400,000m3
  洪水時満水位 標高401.0m
  常時満水位 標高400.0m
  洪水期制限水位 標高393.0m
  最低水位 367.5m
 目的用途別の容量、利用水量、費用負担

   表1-1-1 目的用途別の容量、利用水量、費用負担

目的とする用途

容量(1,000立方m)

開発水量(立方m/秒)

費用負担割合(%)

金額(億円)

非洪水期

洪水期

新規利水

166,000

129,000

12.0

36.80

934

水道用水

7.5

22.50

571

愛知県

-

4.0

10.80

274

岐阜県

-

1.5

4.10

104

名古屋市

-

2.0

7.60

193

工業用水

4.5

14.30

363

岐阜県

-

3.5

11.00

282

名古屋市

-

1.0

3.20

81

治水

44.40

1128

洪水調節

-

100,000

-

流水正常機能維持

160,000

110,000

-

不特定補給

107,000

58,000

-

渇水対策

53,000

53,000

-

発電

11,400

11,400

-

18.80

478

第2 徳山ダム計画の経過
 徳山ダム計画は以下のような経過をたどっている。高度経済成長下で都市部の水需要が急激に増加していた時に立てられた計画に基づいて、現在もダム建設が進められようとしているのである。
1965年(昭和40年)
 促進法3条に基づき木曽川水系が水資源開発水系に指定される。
1971年(昭和46年)
 建設省が揖斐川町に徳山ダム調査事務所を設置して実施調査を開始。
1973年(昭和48年)
 促進法4条に基づき変更された「木曽川水系における水資源開発基本計画U次」(旧フルプラン)で、徳山ダムが水資源開発施設として位置付けられた。
1974年(昭和49年)
 揖斐川の河川管理者である建設大臣は河川法56条に基づき徳山ダム水没予定地を河川予定地として指定。
1976年(昭和51年)4月
 徳山ダム建設事業の主務大臣である建設大臣は、公団法第19条に基づき徳山ダム建設事業実施方針を定めてこれを水公団に指示。
1976年(昭和51年)9月
 徳山ダム建設事業の主務大臣である建設大臣が、水公団が公団法20条に基づき定めた事業実施計画を認可し、告示した。
1976年(昭和51年)10月
 徳山ダム建設事業が公団法20条の2に基づき、建設省から水公団に承継された(これに先立ち1973年(昭和48年)4月に仮承継されている)。
1985年
 旧フルプランの目標年次である。
1988年(昭和63年)12月
 徳山ダム建設事業の主務大臣である建設大臣が徳山ダム建設事業実施方針を変更してこれを水公団に指示。
1989年(平成元年)2月
 建設大臣が、水公団が事業実施方針に沿って変更した事業実施計画を認可。
1993年(平成5年)3月
 促進法4条に基づき旧フルプランが全部変更され、「木曽川水系における水資源開発基本計画(V次)」(新フルプラン)となる。
1997年(平成9年)12月
 建設大臣が、徳山ダム建設事業実施方針を変更してこれを水公団に指示。
1998年(平成10年)1月
 建設大臣が、事業実施方針に沿って変更した事業実施計画を認可。
1998年(平成10年)6月
 水公団および電源開発が、土地収用法18条に基づき、「一級河川木曽川水系徳山ダム建設工事およびこれに伴う附帯工事」の事業認定(本件事業、本件事業認定)の申請を被告建設大臣(当時)になした。
1998年(平成10年)12月
 被告建設大臣は本件事業認定処分をし、告示をした。

第3 徳山ダム計画はなぜ進められてはならないか
1 事業の必要性がない
 徳山ダムは水公団によって建設される水資源開発施設である。
 徳山ダムは高度経済成長下に水需要予測に基づき、高度経済成長期の最末期に計画された旧フルプランによって昭和48年に水資源開発施設に位置づけられた。
 旧フルプランの計画立案段階、あるいはそれに先立つ調査段階においては、急速な伸びを見せる中京地域の水需要がどこまで増加してゆくのか的確な予測をすることが困難で、徳山ダムによる開発水で増大する新規水需要を満たす必要があると判断したものであろうと考えられるが、旧フルプランの目標年次である1985年時点では既に高度経済成長は終わり、水需要の伸びは急激に落ち込み、微増、横這いないし漸減の傾向が続いている。木曽川水系の水需要は岩屋ダム・木曽川用水事業の完成によって完全に満たされ、岩屋ダム開発水のかなりの部分も含めて、その後に完成した水資源開発施設が開発した水は利用されない状態となっているのである。徳山ダムは、使われるあてのない水を開発する水資源開発施設なのである。
 このような事態に至っていることは、本件事業認定処分当時には被告にとっても明白であったのであり、本件事業認定処分は違法と言わざるを得ない。

2 事業が地方と国の財政に与える影響
 徳山ダムは単に無駄な施設であるということにとどまらない。害悪を与える施設である。
 徳山ダムは不良資産となり、巨額の住民や国民の負担を発生させる。
 徳山ダム計画の事業費は2540億円とされているが、昭和60年単価であり、実際にはこれを大幅に上回る事業費が必要となることは必至である。また、これは本体工事価格であり、附帯工事、集水・配水施設費、維持管理費は含まれていない。更に巨額の費用が徳山ダムに伴う一連の事業につぎ込まれることになる。
 徳山ダムの開発水が利用される見込みがないということは、上水道事業、工業用水道事業による料金収入が見込めないということである。供給対象地域の自治体は料金収入により建設事業費を支払うことができない。そのような場合、自治体は、違法であるにもかかわらず、一般会計から建設事業費を支払っているのが現状である。結局住民が無駄な施設の建設費用を負担せざるを得なくなるのである。
 また、徳山ダムの事業費として投入される補助金も国民の税金なのであって、国民が無駄なダムの建設費用を負担させられることになるのである。

3 ダムによる環境破壊の程度は甚大である
 徳山ダムの建設予定地には、イヌワシ、クマタカという日本を代表する大型猛禽類が生息していることが確認されている。
 イヌワシは広大ななわばりを必要とし、生息できる豊かな自然環境を持った地域は日本で数少なくなっている。また、北方系のイヌワシと南方系のクマタカが同じ地域で生息していることであり、このような地域は希少であって貴重である。
 このような貴重な自然が残る建設予定地を、無駄なダムを建設することによって水没させて生態系を破壊することは、人類史に禍根を残すことになる。



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